大悲千禄本【二】

大悲千禄本二 名著全集『黄表紙廿五種』名著刊行会
 高橋明彦様「半魚文庫」

 大悲とも呼ばれる千手観音の手がレンタルになるということを聞きつけ、身分の高いものも低いものも借りに来る。一の谷の戦いで右腕を切り落とされた平忠度、手を切り落とされた鬼神茨木童子、脇役ゆえ手のない人形芝居の人形、手練手管のないお女郎、師に腕を切り落とされた刀工正宗、字の書けない者、三味線を練習する者、手の必要な者たちが押しかけた。
レンタル手の手代である、てれめんてい兵衛、帳面をつける。

千兵衛「手相の良いのは、一割増しです」

ご案内
1.ちょっと貸し 32文
2.一日と一晩 代銀200文
3.1ヶ月 代金2両
4.一年 金10両
* 千手観音の手です、シラミをつぶすのは禁止
* ふところ手にしてたまたまを握ること、ごしごしすること、女性のそこをさわることは禁止
* 心中に使って、指がなくなったものは返却できません。
みぎのとおり、以上
 月  日    一七屋組合

大悲の手、たくあん大根を干しているみたいだ。

いざり「もし、おあしのおあまりがあれば、くださいませ」

忠度「私のことはご存じの通り、借り人知らずと書いて下さい」

 しなびて落ちたのは、誰にやろ、彼にやろ。。愛しいものにやりましょ、との御誓願。

(蛇足) 店先にいろんな人が来て、手を借りようとしています。登場人物がここで絵によって紹介されます。時代錯誤の人物もいて、そこがまた当世風です。手相の良い手は、一割り増しなんて、なかなか千兵衛はやり「手」だな。
 シラミは、千手観音の異名を持ち、だから、大悲の手で、シラミをつぶしてはいけないと禁止しています。ごしごしは五人組、その後は指人形と、指を擬人化した隠語が使われています。また、お女郎はお客との約束に、指先を切ることがあったそうです。(痛そう、でも誰かのために指でも髪でも切ってみたいよ)
 いざりは、手がたくさんあるのを見て、脚もあるのじゃないかと思ったようです。
 忠度の「借り人知らず」とは、忠度の歌が、千載集に詠み人知らずとして採られたことを言っています。
 大根を干すように吊られた大悲の手が、とてもユーモラスです。
   





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