天理大学付属天理図書館 蔵
艶二郎は、もともと好きで、深川、品川、新宿だけでなく、いろんなところでお女郎買いをしてみて、その中でも、浮名ほど手練手管のある女郎はないと思った。しかし、普通に浮き名の客になるのはおもしろくない。恋人となって、女郎が自分の身銭を切ってでも逢いたいと思うほど惚れられたいと思うが、もちろん浮き名にそんなつもりはない。
そこで、志庵が浮き名を独占する客となり、艶二郎は浮き名の世話をする新造の客となった。浮き名を買うより、新造の方が安く、新造買いと見せかけて、実は姉女郎の浮き名と密会、というのが女郎に思われた色男のやり方だとされていたからである。
もちろん、この場合は、志庵が浮き名を揚げづめるのも艶二郎が払うのである。新造を買って、浮き名が志庵のところを抜け出てきたところに、艶二郎と逢う、この不自由なところが「日本」(最高の意味)だと艶二郎はうれしがる。艶二郎「浮き名、おまえが俺のところに来ると、あちらの金持ち(志庵)が怒って、遣り手ばばあや男衆を呼んで小言を言うだろう、この優越感、心持ちの良さは、五,六〇〇両のねうちがあるのさ。」
浮き名「ほんにぬしは粋狂なひとでござりんす」
志庵「俺もつらい役だ。座敷で酒を飲んでいるうちは大尽と言われるが、さて床に入っても蒔絵のたばこ盆ばかり。これも渡世だと思うと腹も立たないが、まあ、五枚重ねの蒲団と錦の夜着で寝るだけ、得かもしれない。」
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