江戸生艶気樺焼下巻其の四

天理大学付属天理図書館

 心中場所も、粋でかっこいいところがいいと、三囲の土手と決めた。夜遅くなってからでは気味が悪いので、宵のうちに決行する。艶二郎にひいきにしてもらっている茶屋、船宿、太鼓持ち、芸者たちは、伊勢参りの見送りのように羽織袴で吾妻橋までお見送りする。多田の薬師のあたりで別れ、艶二郎は日頃の願いが叶ったと、うれしく道行きする。
 ここが最後の場所だと、箔おきの脇差しを抜き、いよいよ最期のとき、南無阿弥陀仏を唱える。藁を積み上げたその陰から、黒装束のどろぼうが二人あらわれて、二人を真っ裸にして、着物を奪う。

 泥棒その1「おまえたちはどうせ死ぬのだから、おれが介錯してやろう」

 艶二郎「待てまて、早まるな。ほんとに死ぬための心中ではない。ここへ追っ手が来て、止めるはずなのに、どうしたんだろう。着物はみんな差し上げますから、命はお助け下さい」

 泥棒その2「以後、こんな思いつきはしないか」

 艶二郎「これに懲りないことはありません」

 浮き名「どうせ、こんなことと思っていました」

(蛇足)茶屋、船宿は、遊女と会うとき使う店で、彼らに見送られて予定の心中場所に行くのだ。普通、心中の道行きは、寂しくてつらいもののはずなんだけど。
 南無阿弥陀仏で、志庵と喜之助が止めに入る約束だったのに、泥棒が出てしまい、介錯してやろうと言い出すのだ。
 「これに懲りぬことはござりません」なんて、きっぱりと懲りましたといわないところが艶二郎。




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